〜原状回復と消費者契約法A〜 (得だねッ情報 2001年10月号 特集記事) 1.原状回復費用の負担方式 従来から行われてきた原状回復費用の負担方式は、分類すれば次の様に分類できます。 まず家主負担と借主負担とに分けられます。家主負担は、原状回復費用として、一切借主から徴収しないとするやり方です(もちろん、故意・過失は別です)。借主負担は、@退去時に敷金から差し引く方法 A契約時に一定金額を徴収する方法があります。 @の敷金から差し引く方式には、「個別算定方式」と「割合方式」があります。個別算定方式とは、退去時に原状回復箇所を個別に算定し、それを敷金から控除して返還する方式です。全国的に広く行われています。割合方式とは、契約締結時に敷金の一定割合(例えば1ヶ月分)を原状回復費用として充当することを予め合意しておいて、退去時にその割合金額を敷金から控除する方式です。Aの一定金額の前払方式とは、契約締結時に原状回復費用の一定金額を入居者から受領しておく方式です。(割合方式と前払い方式は、契約時に徴収するか退去時に徴収するかの違いだけのようですが、前に貰っておいた方がトラブルになりません) 個別算定方式には一般型と特約型が 2.個別算定方式 個別算定方式も、一般方式と特約方式の2つ分けられます。原状回復費用についての一般方式と特約方式の違いは、回復費用の範囲の違いです。原状回復費用は性質上、次の5つに分類できます。 A、自然損耗 クロスの日焼け・畳の変色等 B、通常使用 テレビの黒ずみ・ポスター等の跡・画鋲・ピンの跡等 C、過失 キャスター付きのイス等によるフローリングの傷等 D、重過失 料理中の天ぷら鍋の放置によるボヤ等 E、故意 腹いせに退去時にバットで柱に傷を付けた等 一般方式は、原状回復費用の上記5分類のうち、A・Bについて請求せず、C・D・Eを請求する方式です。特約方式ではA・B・C・D・Eすべてについて請求する方式です。(特約方式は、原状回復費用のすべてを借主に負担させる方法と言えます) 3.特約方式の有効性 特約方式については従来から、「原状回復費用をすべて入居者負担とする特約は無効ではないか」との議論がなされてきました。平成10年3月発行の建設省住宅局(財)不動産適正取引推進機構が出した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」では、次の3つの要件を満たせば、特約方式の特約も有効と認めて います。 @特約の必要があり、かつ、暴利的でないなどの客観的、合理的理由が存在すること A賃借人が特約によって通常の原状回復義務を超えた修繕等の義務を負うことについて認識している B賃借人が、特約による義務負担の意思表示をしていること 裁判例においては、この特約の有効性について肯定する判例と否定する判例が出されていました。 4.消費者契約法10条 そのような状況下で消費者契約法が平成13年4月1日から施行され、同法の10条では、次のように定めています。 10条(消費者の利益を一方的に害する条項の無効) 民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。 同法10条が施行されたことにより、特約方式は無効とされる可能性が大となりました。消費者契約法の解説では、「原状回復要用のうち自然消耗・通常使用(前記原状回復費用の表のAとBの分類項目)による原状回復の費用を入居者負担とする特約は消費者契約法10条違反」と解説されています。 つまり消費者契約法10条が適用されると、いくら原状回復の特約をしても裁判に持ち込まれれば、原状回復費用のうち自然損耗と通常使用部分は請求できなくなります。 賃料の二重取りは認められない 消費者契約法10条では、次の3つの要件を定めています。 @民法・商法等に比し、消費者の利益を制限し、又は、消費者の義務を加重する。 A民法1条2項の信義・誠実の原則に違反する。 B消費者の利益を一方的に害する。 原状回復費用のうち、自然損耗・通常使用による原状回復費用を入居者負担とする特約は、この3つの要件に該当すると考えられます。 @の要件についてですが、自然損耗・通常使用による原状回復費用についても入居者負担にする特約は、民法606条1項で賃貸人が修繕義務を負うことを定められていることから、民法よりも消費者の利益を制限すると批判されています。 Aの要件についてですが、原状回復費用の特約はその回復費用の査定が家主側の査定によってなされ、その負担金額の予想が入居者には困難であり、入居者にとって不意打ちとなる不公正な方法だと批判されています。 Bの要件についてですが、原状回復費用の特約は、原状回復費用が賃料に含まれており、消費者に更に負担を求めることは賃料の二重取りであり、消費者の利益を一方的に害すると批判されています。 以上のとおり、原状回復費用のうち自然損耗・通常使用の部分を入居者負担とする特約は、消費者契約法10条に該当し、無効と考えられます。 契約で定めても無効になる場合も つまり消費者契約法の適用のある契約(事業者と消費者の契約)では、自然損耗・通常使用部分について、契約で“その負担を入居者とする”と定めても、消費者契約法10条を主張されれば請求できなくなると言われているのです。なお、原状回復費用すべてが請求できなくなるのではなく、消費者契約法の適用がある場合でも、過失・重過失・故意による部分の原状回復費用については、入居者の善菅注意義務違反による損害賠償として請求できます。 原状回復費用のA・B・C・D・Eの分類のうち、BとCの区分は重要です。 消費者契約法の適用下では、原状回復費用のうちBに分類されるなら請求できないことになりますし、Cに分類されるなら請求できることになります。 ガイドラインにそった分類が一般的 建設省のガイドラインは法的拘束力のあるものではありません。この分類も、現実の裁判事例では違った分類になるかもしれません。 しかし全体的傾向としては、おおむねこのガイドラインに従った原状回復費用の分類が当面なされていくと考えてよいでしょう。 草加市の不動産情報 |