「これだけは知っておきたい借家法B」


「借家法」の基本を考える第3回目です。

転借人に与えられる保護

 まず、借主がその建物を転貸(また貸し)した場合について、借家法はどのように定めているのでしょうか。
 借主が賃借物を転貸するということは、民法上、貸主の承諾を得なければできないことになっています。しかし、たとえ貸主の承諾を得て転貸された場合でも、あくまでも、貸主と借主との間の賃貸借契約を基礎として成立していますから、この元になった契約が終了すると、転借人(また貸しを受けた人)は、貸主からの明け渡しの請求に応じなければなりません。
 ただしそのために借家法では、貸主が転借人に、元になった契約が終了する旨を通知しなければならないとし、転借人に、通知後6ヶ月間の猶予期間を与えています。

 では、貸主の承諾なしに転貸が行われた場合、貸主は契約を解除出来るのでしょうか。

 最高裁判所は判例で「賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用収益をなさしめた場合においても、賃借人の当該行為が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情がある場合においては、同条の解除権は発生しない」としています。つまり無断で転貸が行われても、「背信」的と認めるに足りないような場合には、これは不法とはいえず、その占有・使用を貸主は容認しなければなりません。
 どのようなものが「背信」的でないかということは一概にいえず、具体的な事案ごとに、さまざまの要因が考慮されることになります。少なくとも今日では、無断転貸があれば当然に解除が許されるというわけではないということを、注意しておく必要があります。

 ここで注意すべき事例がありますので紹介しておきましょう。昭和29年大阪高裁の判例です。借家人から転貸を受けその家屋に入居した人が、家賃取り立てや賃貸その他一切の権限を有する管理人のところに行き、転貸の事実を告げあいさつをし、管理人も雇い人を通じてその事実を知ったのに、その後1ヶ月半もなんの異議も述べなかったという事案で、裁判所は暗黙の承諾があったものとしました。

 このように転貸の承諾は、明示的なものでも暗黙のものでもよく、また必ずしも転貸する借主に対してでなく、転貸を受ける転借人に対してでもよい
ということになっています。

 もうひとつ興味のある判例を紹介します。東京地裁の昭和34年のものです。承諾を得た転貸のある事案で、貸主が解約申し入れをし、貸主・借主それぞれのその家屋に対する必要性(貸主の正当事由)が問題になったとき、現に家屋を正当に使用する者の生存権を保護するという理由で、転借人の事情も考慮する必要があるとされました。つまり解除の際に正当事由を考慮するとき、転借人は間接的にある程度の保護を受けるということです。 

借主に不利な特約は無効となる

 借家法の6条には「借家法1〜5条の規定に反する特約で、借主の不利となるものは、存在しないものとして扱う」という記述があります。
 借家法は借主の地位を保護しようとしていますから、貸主の立場からいえば、それらの規定はいうまでもなく不利です。したがって貸すに際して、これらの規定による借主の保護を奪うような特約をすることが少なくありません。そこで、借家法は、それらの規定に反する特約で借主に不利なものの効力を、6条で否定したのです。

 「借主は、契約期間満了後すみやかに貸室を明け渡し退去すること」などは、前に説明した正当事由制度に照らし合わせれば無効となります。
 それでは、5条までの規定に含まれない事項に関する特約ならば、たとえ借主に不利なものでも、この6条によって無効とはならないでしょうか。答えはイエスで、借家法6条によって無効とされることはないのですが、その扱いは、決して簡単ではありません。

 たとえば修繕に関する特約などはその最もたるものでしょう。
 民法では、貸主は貸したものの使用収益に必要な修繕をする義務を負うと規定しています。しかし、この規定と異なる特約をすることは自由ですし、特約によって、貸主の修繕義務を軽くしたり免除したり、また借主側に修繕義務を負わせたりすることは、何ら差し支えありません。
 しかし、実際の判例を見てみると、「修繕はすべて借主の負担とする」のような特約があっても、それは貸主の本来の修繕義務を免除したものにすぎず、その義務を借主に負わせる意味までもっているとは解釈されていません。「畳替えは、借主においてこれをする」といっても「畳替えをすべき貸主の義務を免除する、あとは必要なら借主の方でやってもらいたい」と解釈されるのです。

 特約に関しての判例です。借主が、畳の表替えと使用に耐えない畳の入れ替えをし、その費用を支出したとして償還請求権を主張しましたが、当事者間には「畳、ふすまの修繕についても、貸主の承諾を得てしたのでない限り、貸主は費用償還の義務を負わない」旨の特約があり、借主の主張は認められませんでした。
 この場合、この特約は有効となったのですが、もしこの特約がないときは借主の請求が認められ、貸主は費用を負担しなければならないので注意が必要です。

 賃料の支払期日も、本来その月の末に支払う後払いでよいのですが、特約によって前払いが義務づけられます。これも借主不利な特約が認められた例のひとつでしょう。
 家賃滞納のときはあらためて催促することなくただちに解除する旨の特約は、借家法6条に該当せず、一般的に有効とされています(実務面ではマメに督促をしその上で解除通告することをお薦めします)。これに反し、家賃を1ヶ月でも滞納したらただちに解除するというような特約は、無効とされることが多々あります。



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