「プロが教える空き室対策」


 賃貸市場の競争が激化する中、オーナーにとって最も関心が高い空室対策を中心に座談会が行われた。適正家賃をどうやって設定するか、インターネット時代を迎えてオーナーはどんな心構えを持つべきなのか、資産家から投資家への脱却をどう図るべきなのか、司会者(税理士)と賃貸管理業経営者F氏とS氏とT氏の4人が新しい賃貸経営のあり方を探る。

 司会 賃貸市場で家賃下落が止まっていません。増え続ける空室をどう埋めたらいいのでしょうかか。

  入居者が決まらない理由は@家賃が不適正A間取りがニーズと合っていないB設備・仕様が不適切C募集の仕方が問題D管理・運営方法が悪い などです。家賃が高い場合には管理会社がオーナーに対し、家賃を下げた方が空室率との兼ね合いからかえって得だという説得ができるかどうかがポイントになります。

  今は入居者が物件を選別する時代なので、家賃をいくら下げても決まらない物件が出てきているという認識をオーナーに持ってもらいたいと思います。それから、家賃を下げる前にやることはいっぱいあって、例えば一定期間をフリーレントにした方が年間収支では家賃を下げるよりも得になることもあります。要するに、長いスパンで収支を考えることが重要です。

  賃貸経営は基本的にデータベースをもとに営むものだと思います。例えば、平均居住期間というのがあって、それがある地域で3年だとすれは、半年、空室にしても来年の春に決められるならそれで採算がとれるということもあります。いったん決まった賃料は長く続くという傾向があるからです。

司会 しかし空室がでれはオーナーは焦ります。

  確かに早く決めるというのは基本です。オーナーも決まったという事実を喜ぶ傾向が強いですから。でも、業者の中には適正家賃を勇気をもってオーナーに言えないところが多いようです。

  家賃引き下げのタイミングが最も大事なので、家賃変更をする場合のルールを家主と決めておくべきです。

  家賃交渉のタイミングを間違うと、せっかくの上客を逃してしまうので、そうした決定権は管理業者に移行してきているというのが最近の傾向だと思います。

司会 家主と管理業者との信頼関係がベースになけれはならないわけですが、現実はどうですか。

  当社はサブリースをメーンにしています。当社の責任で全部やるという基本姿勢を持っているので、家主との利害関係は完全に一致しています。ある種の運命共同体なので判断はかなり、当社にまかされています。
司会 経営センスを持ったオーナーはいま、情報量は圧倒的に借り手の方が多いということに気がついています。そうした借り手は物件を選別しているので、借りてもらうという意識が必要になります。それと関連して礼金や敷金の問題はどうですか。特に、礼金はなくなる方向にあるのではないですか?

  敷金は別ですが、礼金や権利金は基本的には市場での物件力によって決まります。ただ、大きな流れとしてはなくなる方向にあるのではないでしょうか。

司会 賃貸と分譲との競争が本格化する中で、礼金や敷金が多いと気軽に転居できるという賃貸の魅力の足かせになってしまいますね。

  確かにそうですが、礼金はなくなるかと聞かれればなくならないと思います。オーナーがまず嫌がります。また、今後市場での物件力が二極化していくため、強い物件はその象徴として礼金は残ると思います。

  あえて反論すれば礼金はなくなると思います。なぜなら、礼金は東京だけの特異的現象で、同じ大都市でも名古屋や福岡にはありません。今後、日本国内の人の移動性や大きな意味でのグローバル化などを考慮すれば、減少していくのが自然ではないでしょうか。

司会 仲介手数料も借り手にとっては初期負担の一つですが、オーナー負担にすべきだという話もありますね。

  受益者負担という考えをすれば、あるべき姿としてはオーナーが払うべきだと思います。最近はそうしたことにオーナーがやっと気づき始めた段階ではないでしょうか。しかし、現場の実態はまだまだ旧来のままです。
司会 そうした意識改革の遅れは、まだ本当の競争が起きていないからではないでしょうか。オーナーは倒産もしていないから、まだ危機意識が薄いのでは。

 F 確かに借り手の入居時の負担を減らすのが時代の方向だと思います。そのためには手数料の緩和しかないかも知れません。インターネットの世界では手数料はいらなくなるかもしれません。

司会 オーナーは家賃下落や礼金の廃止などで収入が減れば、出ていくものも減らさなけれはなりません。経費の見直しが絶対必要になります。企業で言えば財務対策や資産の見直しによるリストラが必要です。しかし、そうした提案を理解するオーナーは少ないです。まだ本当には困つていないからだと思います。

  われわれもそうした提案はしています。家賃を下げてもリフォームをしても、外国人を可にしても埋まらない物件がありましたが、そうした場合には、現預金をローンの返済に回して負担を減らすことを提案して了解してもらいました。

司会 そこまで行かないと本当の経営決断をしません。つまり、オーナーは資産家ではあっても投資家ではないというところが日本の特殊性ですね。

  その話は極めて象徴的で、われわれ業者もそうした状況にあぐらをかいていて、単なるオーナーのご用聞きに終始しているのではないでしょうか。本当はオーナーに対しさまざまな提案をし、不動産投資という観点からプロパティマネジメントをやっていかなけれはならないんです。資産家か投資家かという問いは、そのまま業者にも向けられていると思います。

司会 その延長線として適切なアドバイスをしてくれる業者かどうかは、オーナーにとってきわめて大切な問題です。管理業者の良しあしの見分け方はどうですか?

  管理会社として自社の実績や業務システムを即座に証明できるということが大切です。アメリカではマンスリーリポートといって、毎月定期的に物件についての管理報告がなされています。

  ほとんどの業者はそこまでは出来ていないというのが実態だと思います。

  具体的な見分け方としては、いろいろなリポートや帳票がどんな体裁で書かれてるか、表現方法に工夫があるかなどで判断することができると思います。

  書くということは管理業務のあり方について普段から考えていなければ出来ないことなので、リポートがないということはあまり考えていない業者ということになります。例えば、空室は部屋の傷みをどうやって防止するかということが重要になるし、何月何日に部屋の空気を換えたとか、ポストにゴミが入っていないことを確認したなどの具体的な管理リポートを出している会社なら安心できます。

司会 インターネットのオーナー側の活用方法は?

 F インターネットに載せることはオーナーにとっても、自分の物件を客観的に見るキッカケになります。

司会 オーナーの中には客が見にもこないと文句を言っている人がいますが、ユーザーはインターネットですでに情報をいっぱい得ているので、その段階で選別されてしまっているんです。

  そもそも、インターネットに物件を載せているかどうかを業者に聞いてみることは、業者選別の大事な要件となっています。

司会 時代や市場の変化が激しいので、築10年もたてば当然リフォームが必要ですが、そうは思わないオーナーが意外に多いようです。

 F 要するに、これまでは素人でも賃貸住宅経営に参入できたということです。日本は鉄道網が発達しているので、駅前5分なら空室の心配はありませんでした。その点、アメリカは鉄道が中心ではないので、駅前何分という概念がありません。それぞれ個別のマーケティング(市場調査)が必要です。日本もこれからは違います。価値観の多様化で、駅前なら確実というわけにはいきません。

  欧米との比較でいえば、日本はすぐ建て替えを考えますが欧米にはその発想がありません。マンスリーリポートでも、建物の修繕計画がトップページに書かれているぐらい重要視されています。

司会 見栄えが悪くなっても、どうせ人に貸す物件だから、という意識がまだ強いようです。300万円の高級車を自家用に買うよりも、そのお金でマンションの玄関回りをリフォームしたら、空室が埋まって年間150万円、2年で300万円の収入になるという発想をなかなかしません。

  浪費と経費の違いを意識していない、という訳です。

 T ただ、リフォームをしたり設備を良くすれば本当に空室が埋まるのかは、データがなけれは証明できません。市場動向についての客観的で正当性があるデータをもとにオーナーに説明する必要があります。

司会 今後の賃貸市場についてはどう思われますか。

  不動産ファンドの影響が大きいと思います。投資という視点が賃貸市場でも常識となります。

  入居者をお客様、物件を店舗と見る意識を、どこまで本気で持てるかが勝敗を決めます。オーナーは経営を勉強しないなら、すべてプロにまかせればいい。中途半端が一番危ないのではないでしょうか。

  オーナーは高い賃料を提示する業者に流れることが多いですが、初めだけ埋まっても仕方ありません。少なくとも1年ないし3年間の運用計画書を、しっかりとしたデータのもとに示せる管理会社を選別すべき時代になってきたと思います。

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