「定期借家権いよいよ3月施行」


定期借家権が、衆参両院を通過して、いよいよ平成12年3月1日から施行されることになりました。この法案は「逃げ水」とか「狼少年」とかいわれ、実現しそうで先延ばしされてしまう、ということを繰り返してきたのですが、やっと立法化されることになりました。
今回は予定を変更して、この定期借家権の“やさしい法律知識”についてお話ししたいと思います。

定期借家権とは何か

 定期借家権とは、一言でいえば “更新のない賃貸借契約”と言えるでしょう。仮に賃貸期間を3年で契約すれば、必ず3年で終了することができるのです。このことは従来の借家権と比べてみるとよく分かります。従来の借家権では、仮に3年の契約期間が到来しても、貸主の希望で契約を終了したくてもできませんでした。その理由は、貸主の希望で契約を終了するには「正当事由」が必要とされているからです。そしてその「正当事由」が、なかなか認めてもらえないものであることは、皆さんご存じの通りです。

 次に、貸主が更新契約の署名を拒否したらどうなるか、というと、その場合は「法定更新」という制度により自動的に更新されてしまいます。つまり、更新は、貸主が認めず契約を行わなくても、強制的に実行されてしまうのです。このことから貸家は「一度貸したら帰ってこない」と言われたりしていました。

 法定更新されると契約期間はどのようになるかというと“定めのない状態”ということになります。定めがないということは、貸主に正当事由があればいつでも解約できるということです。反対に、正当事由が認められなければ借主はいつまでも住むことができる、とも言えます。したがって、正当な事由がないのに、貸主が借主に「出ていってほしい」と言うのは、“いつまでも住める権利を放棄してほしい”と言っていることに等しいのです。権利を放棄させるにはそこに金銭の提供が求められるのが通常です。それが「立退料」と言われるものです。

     そのようなわけで、従来の借家権では、貸主の希望で賃貸借契約を終わらせるときは、必ず立退料が必要になるのです。その額に相場というものはなく、場合によっては家賃の数年分におよぶこともあります。
 定期借家権には「正当事由」も「立退料」も必要ありません。「法定更新」される心配も不要です。そういう意味で、この法律改正は画期的なできごとなのです。

定期借家権の内容

 この法律は、“良質な賃貸住宅等の供給を促進する”ことを目的に創立されました。“賃貸住宅等”といっても、居住用以外の、店舗・事務所・テナントビルなどもこの法律の対象になります。なぜ定期借家権が、良質な賃貸住宅の供給に寄与するのでしょうか。それは、定期借家権の内容を見ていくとあきらかになります。
それでは、平成12年3月1日から施行される定期借家権の細かな内容についてご説明しましょう。

@定期借家権は書面によって契約すること。
 条文では“公正証書による等書面によって契約するときに限り・・・・更新がないこととする旨定めることができる”とありますが、必ずしも公正証書でなくてもOKです。一般の賃貸借契約書であっても、更新がない旨を明記するなど、一定の要件を満たしていれば定期借家権として成立しますが、口頭だけの貸し借りでは認められません。もっとも従来の借家権も、口頭で成立するとは言っても実際はほとんど契約書を作成していますから、実務上は何ら変わるところはないでしょう。

 ただ気をつけなければならないのは、契約期間が過ぎて、貸主・借主共もうしばらく賃貸借を継続したいときは“再契約”ということになりますが、このとき書面を作らず口頭で継続を承認すると、これは定期借家権ではなくなってしまいます。つまり、「正当事由」や「法定更新」の適用を受け、「立退料」がなければ解約できない状態になりますので、注意が必要です。

A契約期間は自由に決められる。
 従来の賃貸借では、契約期間が 1年以下20年以上は認められていませんでした。仮に半年の契約期間で契約しても、借家法の定めによって期間の定めのない契約となってしまいますし、25年と定めても民法によって20年に短縮されてしまいました。今回の改正で、賃貸借契約はすべて契約期間の拘束がなくなりましたので、1ヶ月のマンスリー契約も可能ですし、50年100年の賃貸借もできることになりました。奈良に正倉院という、1300年以上経つ建物が現存していますが、これからの建物賃貸借は1000年でも法律上可能となったわけです。

 また短期間の契約ができる、ということは、たとえば賃料の支払いが多少不安な借主に対しては、3ヶ月ごとの定期借家権で契約すれば、滞納をおこしたら次は再契約しない、ということで損害をくい止めることができます。色々な利用法が考えられるでしょう。

B終了を6ヶ月前に通知すること。
 定期借家権といえど、期間が満了となり契約を終了させたいときは、満了の1年前から6ヶ月前までに借主にその旨を通知しなければ、その契約を終了させることはできません。
ただし、その通知期間がすぎても、通知してから6ヶ月経てば契約を終了させることができます。この規定は、契約期間が1年未満の時は適用されませんので、仮に9ヶ月の定期借家契約のときは、通知なしで終了させることができます。
 いずれにしても定期借家契約の場合、期間の管理をしっかり行う必要が、従来に増して強くなるでしょう。

C賃料の増額減額請求権を排除できる。
たとえば家賃10万円で入居していてる借主も、その後の賃料相場によって新規の募集が9万5千円となると、契約途中であっても値下げを要求してきたりします。従来の借家法では、“賃料の減額請求権”を契約によって禁止しても無効となっていたので、借主はいつでも減額要求ができ、その要求が妥当であれば認めざるを得ませんでした。今回の改正によって、特約で賃料の減額要求を禁止すればそれが認められることになりました。 仮に契約期間が3年で定期借家契約を結べば、3年間はその家賃を確定させることが出来るようになったのです。

D借主は1ヶ月前に解約の申し入れができる。
 契約期間内であっても解約の申し入れによって契約が終了するのは、いままでも何ら変わらないと思われるかもしれませんが、それは違います。従来の借家契約では、“期間内であっても契約は解除ができる”という特約さえなければ、これを禁止することが可能でした。つまり、2年契約ならば2年間はお互いに解約できない、という契約内容が可能だったのです。ただ、慣習的に期間内でも一定期日前に申し入れれば解約できる、という項目を特に入れていただけなのです。ただし、今回の改正で、借主は要件さえ満たせば1ヶ月前の申し入れで解約できる、という内容が盛り込まれましたので、これで完全に期間内解約を禁止することはできなくなりました。

    その要件とは“床面積200u未満の居住用賃貸物件で、賃借人が転勤・療養・親族の介護その他やむを得ない事由により、生活の本拠を移転する必要のある場合”となっています。200u未満ということはほとんどの賃貸住宅が含まれてしまいますが、借主が自宅に使用している賃貸住宅に限る、ということで、事業用物件は含まれていませんし、法人契約の場合にはこれを禁止することができると思われます。

 大家さんにとって特に気になるのは、既存の契約を書き換えることによって、定期借家権に変更することができるのか、と言うことだと思います。これは、たとえ合意解約した後、公正証書によって新たな定期借家契約を締結しても、認められません。たとえば現在入居中の借主に対して、何らかの便宜を図っていったんその契約を解除し、解除された証拠に“覚書”を残したとします。その後に新しく同一の物件で定期借家契約を結び、その時点で借主が納得ずくであったとしても、借主が満了の時に異議を言い出せば、更新を認めない契約の適用はできません。 この規制は“当分の間”採用されることになっています。当分の間とは4年間とされており、4年後にどうなるか、見直しされることになっています。

 以上が新しい定期借家権制度のあらましです。
 米国は契約社会といわれ、契約の内容をとても大切にします。賃貸借契約を結ぶ場合も、貸主・借主双方が契約条項を真剣に検討してからサインします。ですから、米国の契約書は数十ページにおよぶことも希ではありません。もちろん米国は最初から定期借家制度です。期間を定めて契約するのですから、期日がきてどちらかが終了を望めば、契約は解除されるのが当たり前、という考え方です。日本の借家法は世界的に見ればローカルルールであり、極めてユニークな法律なのです。

 日本は、契約に対する考え方がいい加減のようです。万一トラブったらその時は“おかみ”にお恐れながらと申し出れば、裁定を下してくれる、という考え方が基本になっています。まだ江戸時代の、大岡越前や遠山の金さんを引きずっているわけではないのでしょうが。
 毎日使用されている賃貸借契約書を見ても、“貸主・借主双方とも3ヶ月前に申し出れば契約を解除できる”とか“1ヶ月たりとも賃料を遅滞したときは無催告で契約を解除できる”とか、およそ通用しない内容が記載されているものを多く目にします。使っている側も、その内容が通らないのは承知の上です。万一の時は、借家法・民法に照らして解決すればいい、と思っているのです。

 しかし、定期借家制度の契約書では、契約書に記載されたことがかなり実現するようになります。契約はいつで終わらせるのか、終わったら必ず退去しなければならないのか、賃料は絶対に変更できないのか、契約期間の途中では解約できないのか、こういった内容が契約で定めたとおり実施されることになります。そういう意味で、日本でも本格的な契約社会の到来を予言する法律改正、と言うことができると思います。
 次回は、定期借家権のメリット・デメリットと上手な活用法を考えたいと思います。



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