「アパートを建て替えようA」


前回は、何故建替が必要か、その建て替えを成功させるためのプロセスはどうなっているか、ということについて考えてみました。今回は、そのプロセスの中でも一番重要な「立ち退きの問題」について、ご一緒に考えたいと思います。

条件に応じた3つの方法

 言うまでもなく、家主の都合で「建て替えるから出ていって欲しい」「はい、そうですか」で簡単に済む時代ではなくなっています。居住者にとっては生活が脅かされる問題になるわけですから、充分な配慮と慎重な交渉を行う必要があります。
 そうした配慮がないばかりにいたずらに問題をこじらせ、賃料の供託や裁判で争うといった面倒な事態になるケースがあります。たとえ、裁判で争ったとしても、現在の法律では家主が勝てる可能性は少ないのが事実です。立ち退きを迫っても、法律的には余程の正当事由がない限り立ち退きが認められることはありません。

 多少老巧化していると言っても、正当事由にあたらないという判例もあり、またただ収益性が悪いから建て替えたいというのでは認められません。要は、一方的な事情の押しつけでなく、充分な話合いが必要ということです。
 しかし、逆に言えば、入居者の立場にも充分な配慮を行って交渉すれば、この立ち退きの問題も決して難しいものではないことが多いのです。

 そこで、この立ち退きの問題をスムーズに運ぶにはどうすればいいのか、具体的な対応策を考えてみましょう。
 現実的な対応策として、3つのポイントに分けられます。
 @時間をかけて交渉し、入居者にも納得していただく。
 A一定の立ち退き料を支払う
 B建て替え期間の代替え住宅を用意し、完成後にまた入居してもらう。
 それぞれの家主さんの事情によって、この3つの中から、最も現実的な対応策をとればよいでしょう。

 例えば、建て替えを急いでいるわけでなく、じっくり時間をかけてかまわないという場合には、なるべく@の方法ですすめ、どうしてもという入居者のみ立ち退き料の交渉をしますし、多少立ち退き料が高くなっても早く実行したい場合には、Aの方法を最初から前面に出します。
 また、入居者の事情によりどうしても立ち退きたくない、と言う入居者にはBの方法をとるとよいでしょう。ケースによっては@〜Bの組み合わせで対応していきます。
 いずれにしても理想としては、@のように入居者に納得してもらい、トラブルもなく立ち退きを終了させることであるのは言うまでもありません。

 通常は、建て替えを決めたら、入居者に事情を話して通告し、次の更新は行わないことを説明します。この場合、更新期日の半年前以上でなければなりません。もし、更新期日が半年以内に迫っている場合は、更新時期にとらわれず、半年以上先の解約希望日を通知するとよいでしよう。このとき、何の前触れもなく内容証明を送付したりしますと、相手が態度を硬くしますので、口頭で充分な説明をした上で、形式的に送る旨を説明する必要があります。

 交渉の期間に、徐々に空き室が多くなり、収益は悪化します。それに耐えられるだけの資金的、時間的な余裕が必要になります。
 日本住宅総合センターの「民間賃貸、住宅の建替え実態と促進方法」と題したレポートでも、居住者が退去するのを待って平均1年間空き室にして、立ち退きを完了するケースが多いとしています。

 入居者にしても、次第に居住者が減少していけば、何となく生活がしにくくなり「いずれ自分も出ていかなければ」というムードが強くなってきます。
 きちんと説明すれば、話を理解して退去に応じてくれる人たちが必ずいます。そういう方達から交渉を進めていくとよいのです。逆に、こちらが誠意をもって充分な説明を行っても色々ごねる方達もいます。立ち退き料の額で決着がつくのか、本心でここに住み続けたいと願っているのか、見極める必要があります。いずれにしてもこの方達の交渉は後回しにします。

立ち退き料は賃料の半年から1年分

 では、Aの立ち退き料を支払っての立ち退きの場合にはどうなるでしょうか。この方法では、常に立ち退き料の相場が問題になります。
 しかし、実際には立ち退き料に相場というものはありません。というのも、立ち退き料は、多くの場合家主と入居者のそれぞれの事情によって決まり、極端な場合には何百万円も支払っているケースもありますし、反対に数十万円程度ですんでいる場合もあります。ピンとキリの格差が大すぎて、相場というものが形成されにくくなっているのが現実です。

 家主の立場から見ればとにかく急いで退去して欲しい、そのためには多少のお金は惜しまないという場合なら、かなり高額の立ち退き料を出すでしょうし、そうでもなく、ある程度妥協できる線で話し合いがつくまで時間をかけてかまわないというケースでは、さほどの高額にはならないでしょう。

 ただし、先の「民間賃貸住宅の建替え実態と促進方法」では、「立ち退きに伴う費用は月額の賃料の6カ月分から1年分くらいの金額を考えなければならないと思われる」としています。
 これは、実際に建て替えを行った事例の調査から導き出された1つの結論だけに、ある程度建て替えに当たっての立ち退き料の現実を反映している数字と見ることができるだろうと思われます。

 しかし、これも絶対的な数字ではありません。地域的な違いもありますし、日常的な家主と入居者の関係も影響を受けるでしょう。普段からあまり良好な関係を築けていない場合には、この金額が上限に近いものになる可能性が高く、反対に、良好な関係から円満に話し合いがつけば、最低レベルの金額で決着がつくことも考えられます。
 いずれにしても、賃貸管理業者と相談しながら、負担が少なく解決できる方法を検討する必要があります。

信頼できる業者であれば、交渉を任せてみればよいでしょう。以上が立ち退き交渉Aの方法ですが、入居者の立場からみれば、いくら立ち退き料をもらっても、どうしても出ていけない場合もあります。何十年と住んで、その街から離れたくないという気持ちを強く持っている人もいるでしょうし、高齢者の世帯では、一定の立ち退き料を手にしても、次の住む家を確保しにくいという問題も出てきます。

 ことに高齢者で一人暮らしだと、次の入居先は簡単に見つからないのが現状です。また、引っ越しすると家賃が高くなるのが普通ですが、年金生活では、今以上の家賃はとても払えないという問題も一方では存在します。
 このように、高齢者が入居している場合が、最も立ち退き問題を難しくしているといっていいでしょう。
 本来行政が福祉住宅などを用意すべきであり、地域によってそうした住宅がある場合もありますので、行政の窓口でそうした相談に応じてくれるか、一度相談してみるのもいいでしよう。
 それが無理なら、次のBの方法で対処するしか手段はなさそうです。

代替え住宅を見つけて、建て替え後にまた住んでもらう

 最後にBの方法について説明しましよう。
 近所の賃貸住宅を探し、建て替え期間はそこに住んでもらい、完成後に再び戻ってもらうという形です。または、平屋の貸家をアパートに建て替える場合など、既に空いた貸家を何件か取り壊し、そこにアパートを建て、残っている入居者に移り住んで貸家を
空けてもらい、さらに残りの貸家を取り壊し、もう一棟アパートを建てるという方法です。

 ただ、この場合には、この間の引越し費用などを家主が負担するほか、建て替え後の家賃にしても、新たに募集する人に比べると安く設定せざるを得ないという問題もでてきます。
 入居者が高齢であるために立ち退きが不可能であるとか、お金の問題でなくどうしても立ち退きをしたくない、という場合にやむなくとる方法といえます。事実、最近の事例でも近くに賃貸住宅を見つけ、その引越し代と家賃の差額を家主が負担、建て替え期間中はそこん住んでもらい、完成後に新たに入居してもらう形をとったということもあります。

 もちろん、建て替え後の入居時には、礼金などはとれません。また、新たな賃料にしても、通常は以前より高くなりますが、当初2年間については建て替え前の賃料と同額とし、その後更新時に話し合うという形で決着をみたということです。この場合は長く住んでもらう間に、世間相場に応じた賃料水準にしてこなかったことがかえって仇となっています。

 常に世間の相場と同水準であれば入居者の意識も変わってきますし、またある程度の期間で入居者の交代も行われます。いわば、相場に合わせた健全な賃貸経営を行うことが、将来の建て替え時の問題をクリアすることにつながる、という見方もできます。
 建て替え後には、こうした点も考慮した経営を行うべきでしょう。

 以上、対応策として3つのポイントを挙げましたが、いずれにしても根気よく、強い意志を持って交渉に挑むことがなにより大切になります。
 また、利害関係がある当事者同士、つまり家主と入居者、が直接交渉するよりも、第三者が間に入った方がスムーズにゆく場合が多いようです。
 地道にコツコツ交渉してくれる信用のおける賃貸管理業者に任せてみることも大いに検討してみてください。



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